●596●『世界教養全集6』『田中正造と足尾鉱毒事件研究』

2009年4月10日 22:33:09

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3月に年度末の公演を終えて、やはり少し時間ができるようになった。
心にも少し時間ができたのだろう。意欲的に本に手が伸びる。
こんな感覚で読書ができるときは、ノルマのことなんか忘れている。
なんの本を読もうかな、と考えることもなく、本に手が伸びる。
目の前には本が山積み。世界教養全集が高い山脈を作り、頂いたまま未読の本が積まれ、

その山は、100冊近くになっている。

先日、頂いた『田中正造と足尾鉱毒事件研究』
ジャーナリズム研究者の関口和広さんが論文を発表されている。
関口さんに本書を送っていただき、すぐに読んだ。
読んで、感想を手紙に書いた。
素晴らしい一冊だ。読了後も机の上にずっとある。

関口和広さんは、「田中正造直訴事件と新聞報道」というタイトルで、
その精緻な研究の成果を発表されている。
新聞報道という常に一瞬前の過去という事実を丹念に積み重ね、
真実に近づくための一つの方法を提起され、且つそれを成功させている。
その手法に驚いた。国会図書館はじめ、大学の図書館などで資料を集められている。
なるべく多くの分母を得ようと努力されたことだろう。
素晴らしい手法だと思った。時間がかかったことだろう。
その集められた貴重な資料は、

本誌「編集後記」に、関口和広さんが取り上げられている。
収集された資料を閲覧に便利なように寄贈されるそうだ。

集められた貴重な資料。それは、もちろん一視点からだけにせよ、常に一瞬前の事実だ。
分母が大きくなれば、その確度もあがるだろう。
関口さんの論文にもその焦慮があらわれ、関口さんの熱情を感じる。
氏の柔軟な発想に感服し、他の論文も一気に読んだ。

「初期社会主義者たちと田中正造」(林彬)という論文が掲載されている。
面白く読んだ。幸徳秋水、平民社、山川均、堺利彦、石川三四郎、木下尚江・・・
そういえば、日本思想大系でも社会主義思想と平民思想と田中正造の関係に触れられていた。
「谷中村民の移住と村落(ムラ)の再建」(久野俊彦)という論文も、
その視点の鋭さに驚き、その調査の執拗さに感服した。

こんな本が出版されているんだ。
素晴らしいことだ。
どうでもいい新刊が色とりどりに書店に平積みにされている。
売れ筋だとカラフルなポップが並び、
そのポップも一週間と命脈を保ちえず、
ランキングをつけることで購買層に本購入の理由を与え、
あの手この手で購買欲を刺激し、年間7万冊の新刊が、死んでいく。

ぼくたちが本を選び取っているという錯覚を与え続けてきた日本的なシステム。
笑わせるな。思い上がるな。
ぼくたちは、本に選ばれているんだ。
本に選別されているんだ。

『田中正造と足尾鉱毒事件研究』。こんな一冊こそ世に問うべき一冊であり、
残るべき一冊であり、きちんと正札で売られ、買われるべき一冊だ。

『世界教養全集6』(468)
・「日本的性格」長谷川如是閑
・「大和古寺風物誌」亀井勝一郎
・「陰翳禮讃」谷崎潤一郎
・「無常といふ事」小林秀雄
・「茶の本」岡倉覚三 村岡博訳

『田中正造と足尾鉱毒事件研究』編/渡良瀬川研究会(128)