●413●『林達夫集』【近代日本思想大系26】
2009年5月14日 22:08:08
5月11日にこのHPに書いたことで、メールを頂いた。
丁寧なメールだったけれども、どうも論点がはっきりしない。
あらためてご返答いたします、とまずは返信した。
そして、今日、手紙を書いた。
全身全霊言葉の限りをつくして、手紙を書いた。
書けば書くほどそれは、アジになっていくのを抑えられなかった。
まあ、アジ文は、相手方も好きだろう。そんな時代を過ごしてきたのだから。
一日で何人も敵を作り、なんだかんだとやりづらくなり、
でも、自由を手に入れ、演劇を手中に収め、
週なかばをひっくり返り続け、本ばかり読み、ページを閉じると思うことは同じで、
本になりたい。
そうだ。テロリストになるんだった。
ぼくは、まだ死んじゃいない。
『林達夫』を読み終えた。読みやすく、一気に読み終えた。
こんな人が日本にいたんだ、と思った。痛快だ。
林達夫の言葉は、強く、正確で、その批評精神は確たる彼の基礎に裏打ちされ、
痛快だ。気持ちよく読んだ。けれども、この一冊の終わりには、なぜか、寂しくなった。
「林達夫」という人生が寂しかった。
一冊の本を評するのに、その著者以上に勉強し、
時局を評するのに、時代の政治家以上に政治に精通し、
ただ、書く。ただ、評する。ただ、反語する。
多くの敵を作ったのだろう。たくさんの恨みを買ったのではないか。誹謗中傷ばかりだったのではないか。
でも、書かずにはいられなかったのだ、林達夫。
体の奥の奥に嫌な音を発射し続け、吐き気をこらえ続け、
背中を走る熱に拳を握り締め、「しらねーよ」と毒づく。
体の奥の奥に熱を持ったまま、どうでもいいメールに返信をしたり、
訳のわからない論理を嘲笑したり、
頼むから、そっとしておいてくれと、垂れるよだれを拭う。
お願いだから一人にしてくれ、お願いだから静かにしてくれ、
お願いだからこのまま逃がしてくれ、と。
誰にお願いしてるんだか、まだ生きてんのか。
三種の全集を同時にランダムに読んでいる。
『近代日本思想大系』『世界教養全集』『世界の名著』
手に当たったものを読んでいる。目に留まったものを読んでいる。
机にのっているのは、『近代日本思想大系・西田幾多郎』と『世界教養全集・東西日記書簡集』
本ばかり読んでいる。それがどうした。
『世界の名著』の一冊目を開いた。
第42巻『プルードン バクーニン クロポトキン』
鈴木さんから、「これから読むのがいいでしょう」とファックスが届いた。だからこれから読もうと思った。
1ページ目から、心を奪われる。
自分に基礎教養がないことが突き刺さる。
あわてて、パリ・コミューンの資料を探す。焦りながら欧州年表を取り出す。
自分に毒づきながらフランス革命史を確認する。
本を読みながら、何もかもを捨ててもいいんだな、と思った。
何もかもを手放すのも手だ。魅力的な一手だ。抗いがたい一手だ。
全部を放り投げて、一からスタート。場所も名前も歴史も何もかもを捨てて。
本を持ってはだかんぼ。
それだけ。
『林達夫集』【近代日本思想大系26】編集・解説/山口昌男
(413)
『林達夫集』【近代日本思想大系26】
編集・解説/山口昌男