ポスターに寄稿いただきました。鈴木邦男さん。大浦信行監督。

2009年6月30日 22:01:02

全世界が<見沢>になる!

鈴木邦男(一水会顧問)


彼は文の人、武の人、愛の人だ。知の人、情の人、意志の人だ。
強い人、繊細な人、したたかな人だ。三つの顔を持ち、三つのステージで戦った。

名前だって三つある。本名は高橋哲央だ。でも、それは親からもらったペンネームだ。
勉強の出来る、いい子として、すくすくと育った。

そして新左翼運動に入り、清水浩司と名乗った。ペンネームだ。
反体制の運動なのだから組織名とかコードネームと呼ぶべきだろうが、新左翼はペンネームと呼ぶ。
単なる非合法集団ではない。世直しだ、表現活動だ、という心意気があるからだろう。
ただ警察からの防衛上、名前を変えるのだ。
新左翼をやめて一水会に入り、新右翼運動を戦った時も、この名前を使っている。

そして、スパイ査問事件で逮捕され、12年獄中に・・・。
そこで地獄を見た。極限を味わった。出てきた時は作家になっていた。名前も見沢知廉になっていた。

名前を変え、脱皮するたびに、グングンと大きくなった。
いや、全ては<小説>なのだろう。生まれた時から離陸するまで・・・。
全ては小説家・見沢知廉が書いた<物語>だ。
だから見沢の全てを知ってると思っても、まだまだ見落しがある。未知の、未読の<物語>がある。
それを最近、痛感する。

死後、出版された小説は、まさに死後、書いたものだ。
そう思わせるほどの迫力がある。これからも、どんどん書く、死後も成長し続ける作家だ。
勿論、見沢知廉として書き続ける。今年50歳だ。まだまだ、これからじゃないか。
と同時に、4度目のペンネームを使う。
それは劇団再生の脚本家の名前かもしれない。俳優の名前か。あるいは君達の名前か。僕の名前かもしれない。

全世界が<見沢>になる!

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見沢知廉・「たった一人の革命」

大浦信行(映画監督)


見沢知廉は、一遍の叙事詩を生きた男だったとぼくは思う。

彼の人生の道程は、日本近現代の深部に巣くう闇と蠢く死者たちを内蔵しながら、
ひた走りに突き進んだ果ての現実との齟齬と歪みの振幅そのものだった。
やがて彼の身体に溢れ出す世界に対する異和と焦燥感。

その時、彼は密かに思うのだった。世界を爆破しようと。それもたった一人で。「たった一人の革命」として。

そのようにして爆破の後にやってくるだろう新たな世界への孤独な希求。
それは見沢知廉の想い描いた壮大な虚構だったのかもしれない。
だとしても、彼が新左翼に失望したその事、
硬直した「68年型の男根的革命観」とは明らかに違う
彼独自の思考の回路を通して醸成される「螺旋的革命への萌芽」がそこにはあったとは云えないだろうか。

本来、思想は煮えたぎる血の色をした危険なものでなければならないはずのものだ。
高く高く飛びすぎた故に、翼の蝋(ろう)が太陽の熱で溶け、海に落ちて死んでいったイカロスのように、
彼は自らが形成し掲げた世界を変革しようとする思想によって燃え尽きたのだという悲劇と逆説。

まさに彼は、革命的神話の時空を生きたのだった。
そして皮膚の毛穴にまで染み込んだ内なる天皇を抱えて、拡散し膨張と収縮を繰り返しながら、
無数の色彩を持った見沢知廉の像として、今もなおぼくたちの心の中に在り続けている。

見沢知廉の「たった一人の革命」は、
豊饒なエロスに裏打ちされた無名の人々が造り出す「祝祭の場」としての革命でもあったのだ。

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見沢文学の行間が叫ぶ

高木尋士


小説家見沢知廉、享年46歳。生涯の1/4を獄中で過ごした。母と二人三脚で書き抜いた両翼の小説家。

その身を総括し続け書いたそれは、ぼくたち共通の原風景だ。
全人類共通の原体験だ。

彼の死後、遺されたのは十数冊の小説。そこにはフィクションとも事実ともつかない言葉が並ぶ。
でも、ぼくたちが読まなければならないのは、そこにある行間だ。

懲役十月十日、母という監獄を満期出所してみれば、そこもまた監獄だった。
目の前の全てが彼に対立し、彼もそれに反抗した。毎日が果てしないシジフォス的労役だ。
学校という監獄を脱獄した。新左翼に「My帝国」を築こうとした。だが、そこも監獄だった。脱獄。

そして、新右翼に自由を求めた。けれども、そこもまた・・・(どこに行っても檻の中・・・)
まさに無期懲役だ。懲役12年どころではない。いつ出られるのか、仮釈放はあるのか・・・監獄。

見沢小説の<行間>が続ける。「お前らも囚人じゃないのか?」
<行間>が苦闘の呻きをあげる。
「お前らも無期囚だ。それとも何か? 懲役80年だかの満期が決まってんのか?」
ページを捲るとその呻きは、見沢さんの声になっていく。アジだ! 見沢さんのアジだ!

「俺は、獄中記を書いた。見ろ!これがそうだ!おふくろを食い破ってからの獄中記!」
行間が興奮して煽動する。
「今度はお前らの番だ。お前らの獄中記を書いてみろ!」と。
見沢さんは、彼の両翼をぼくたちに預け、今も声をあげている。