片腕の男が隣にいる

2010年12月23日 00:22:00

『片腕の男が隣にいる』

癌だけが今は身内と消灯後 片手失くしし男が笑う

片腕の長の住処かこの部屋が ニーチェ大健サルトル積み上げ

わが読みし資本論取り懐かしと 左翼は死んだと片手が笑う

兄さんは左翼なのかと我に問い 片手で読みしは「一握の砂」

消灯後しつこさを増す片手の声 女としたのはいつが最後か

よく笑う片手の男箸をとめ クリスマスにはケーキ食いたし

呻きつつ痛み止め噛む片手の声 神も仏もいねぇよこの世に

『夜半の冬雨』

いつまでも慣れぬ痛みに身を丸め 呪うものなしくそったれの夜

耐え切れずナースコールに手を伸ばす 夜半の雨に看護婦を呼ぶ

借りてきし小さなテレビの寂しさよ 冬雨の中列車に乗りたし

薬臭き薄き布にて仕切られし このベッドにて何人死にしか

福耳の若き医者の手に吾をゆだね どうにかしてくれ呻く哀しさ