改めて再掲【照準機関】
2016年3月3日 01:12:56
照準機関
以前、書いたものだが、改めて自戒をこめて。
音響と言えば、わかる。はっきりとわかる。
音響には、プランや操作という細かい分類があるけれども、
音響プランと言えば、演出家が創っている、
音響操作。これもわかりやすい。実際の現場で、
照明さん、というのもわかりやすい。俳優。これもわかる。
さあ、演出、だ。これが、わからん。
世の演出家はきっと「こうだ」とはっきりと答えるのだろう。
だって、自分の仕事なんだから。
だが、ぼくにはずっとそれがなかった。
対外的に、演出なんです、と言わざるを得なかったが、
分からないのだ。
だから、自分がやっている仕事に言葉を当ててみた。
それが、「照準機関」だ。
そうしたら、しっくりとした。
そうして考えると何もかもがぴったりと収まるところに収まった。
照準機関、ってなんですか?
そう聞かれることが、ある。
だが、それを問う人たちは、演出って何ですか、とは問わない。演出ということが分かっているからだ。
照準機関って何ですか、と聞かれて、何と答えるか。
正直に言うと、その都度適当に答えている。
失礼? そうかもしれないけれど、
ぼくはぼくだけの言葉を持って機関に燃料を送り、
照準機関って何ですか?
作品を照準するんですよ。それが仕事です。
という答え方は良くする答え方だ。一番無難で一番適当だ。
だが、その答えからは、
そう、機関を説明するのが一番面倒だ。
照準機関が最後的になにをすべきかという問題も、
そう。イギリスの産業革命と同じ構造なんだ。
照準機関として作品を創る、ということを、
記述機関を動かしてみたこともある。
まだ名付けえぬエンジンも幾つかある。きっとそれらもおいおいと動かしていくだろう。駆動機関、発生機関、伸縮機関、整備機関・・・
そんなエンジンを複雑なギヤで噛み合わせストレスなく動かせば、
その巨大な機関群はものすごい作品に辿り着く。
ただ、問題は、産業革命と同じ。
街に爆音をまき散らし、毒以上に体に悪い排気ガスをまき散らす。
人々はその音と真っ黒な空気に辟易しながらも、
イギリスがそうだった。それなしではいられなくなったのだ。
その音が未来をつれてくると信じ込んだ。真っ黒の空が未来の象徴だと思ったんだ。確かにそうだった。
ぼくが今ゆっくりと組み上げているエンジン群もきっとそうなる。
全てのギアがかみ合った時に、それは高木機関と呼ばれるだろう。
そして、たった数年でお役御免となり、
その機関の益を享受した人びとの手によって無残に解体されるのだ
手足を千切られ、目をえぐられ、口を閉ざされ、肺を潰され。
そんな情景も当然のこと。
そして、ぼくは、そのまったく新しい思考エンジンに、祈る。
せめて、何者かであってくれと。せめて、
匿名の世の中なんか、ここで終わりにしたいんだ。