『見沢知廉とその母の事』大浦信行
2015年7月23日 21:30:41
8月『天皇ごっこ〜母と息子の囚人狂時代〜』にコメントをいただきました
『見沢知廉とその母の事』大浦信行
46 歳で自死を選んだ見沢知廉。
そして彼を精神的にも物質的にも支え続けた母・高橋京子。
僕は4 年前、見沢知廉を主人公にしたドキュメンタリー映画をつくった。
その過程を通して、この二人についての様々な出来事を知った。
それは太古から営々と在り続ける親と子の、分かちがたい一篇の神話的叙事詩を目の当たりにするような経験だった。
獄中12 年、見沢の出所後、こんな事があった。
お母さんが彼の部屋に掃除に行き、片付けをしながら呟く。
「あなたが作家として成功してくれれば、私は野垂れ死にしてもいいの」。
この言葉に見沢は「なんでそんな悲しいことを言うんだ」と、号泣し、
その後、二人は抱き合って泣いたという。
また、こんな事もあった。
お母さんが仕事から帰ってくると、自宅マンションの廊下や壁に点々と血が付いている。
何か不吉な予感を覚えた彼女は、急いで家に駆け込む。
すると、辺りは一面「血の海」であった。
「何したの!」と叫ぶ彼女に、見沢は布団の中から「小指を詰めたんだ」と、ニコニコ笑っているのだ。
見沢が亡くなる数日前、一日に何度も電話をかけてきた。
「お母さん、ありがとう、ごめんね」その言葉を繰り返していたという。
僕は今、三島由紀夫のこんな言葉を思い出す。
「もし夢が現実に先行するものならば、われわれが現実と呼んでいるものは、逆に不確定なものになる。すると夢こそが現実である」。
見沢知廉と高橋京子による数々の出来事の集積。
それはこの現実の真っ只中に織り上げられた、母と息子の豊饒な「祝祭の場」だったのだ。