撮影者森本薫の眼

2009年11月17日 16:16:21

【撮影・森本薫】

一本の公演を終えた。
たった一回の公演。40分の作品。『空の起源〜天皇ごっこ〜』
秋葉原の地下。この公演の為に、この脚本を書き、稽古を重ねてきた。
一本の公演を終え、数日が経った。
いつもと同じだ。一本の公演を終えると、数日は経ち、
その間に稽古がいつもどおりあったり、晴れたり雨が降ったり、
たくさんのメールを交わしたり、寝たり起きたり、いつもと同じに数日が経った。
一週間の公演も一日の公演も同じだ。疲労の度合いも同じだ。

一本の公演を終えて、いつもどおり数日が経った。
いつもどおり劇団再生の稽古が重なり、次の舞台の美術作製に取り掛かり、
次の公演の制作事務に取り掛かり、公演後の事後処理をこなし、
恥ずかしげもなくメシを食い、恐怖しながら横たわり、歌を詠んだ。

森本薫さんの眼。
シャッタを切ると人がわかる。それは常にそうだ。写真はわかりやすい。
森本さんはこの公演に何を観たのか。
森本さんは劇団再生に何を見たのか。
こうして残された写真を見ていると、それが何か、浮かびあがってくる。

それにしても、演劇のことしか考えていない、とあらためて思った。
次の舞台のことから、来年のこと、次の次の脚本のこと、次々に浮かび上がる画という画。
生まれる言葉が自分の言葉かどうか、一つ一つ吟味する。
借り物の言葉を排除する。
いつかどこかで聞いた言葉を捨てる。
いつかどこかで読んだ言葉を嫌悪する。
自分の真似をしない。あなたの模倣に吐き気を覚える。
安心確実な言葉なんかいらない。
無我夢中の五里霧中。そんな一歩でいい。

森本さんが見ているのは、そこだ。
写真を見て、確信した。森本さんの五里霧中と劇団再生の五里霧中。
不安定にもほどがある盲目の一歩。

昨日、疲れていることに気付いていないんだ、と言われた。
そんなことはないだろう、と思いつつ、恥ずかしげもなくメシを食い、
ピンクや白や青の錠剤を噛み砕き、赤いコーヒーメーカでコーヒーをいれる。
森田童子はくるくる回り、全集一文字を追う。そりゃ疲れてる。そんなことはわかってる。
わかっていてもことごとくのことごとが楽しくて仕方ない。
考えていることが楽しい。作っている事が楽しい。創ることが楽しい。
書くことが、描くことが楽しくて仕方ない。読むことも撮ることも。
メールも楽しい。インターネットも楽しい。音楽も楽しい。
万年筆にインクを充たすことも、頭の中に演劇を充たすことも、全部、楽しい。