コトバは羽毛を纏い、ぼくは着物を纏う
2011年4月17日 22:08:55
着物を着ることが多くなった。
着物を着て歩くのに気持ちいい季節になってきた。
昔から着物を着ることには、なんとなく憧れがあった。
手本は、高倉健とアニメ『ルパン三世』の石川五右衛門だ。
彼らを見ながら、(あんな風に着物が自分に似合ったらいいな)と思っていた。
でも、着物を普段に着るという行為はなかなかに敷居が高かった。
着なれてきた今はそうは思わないけれども、やっぱり昔はそう思っていた。
なんだか難しくて堅苦しくて不自由で・・・と。
そして、多くの出会いがあって、今は案外普段に着てぶらぶらしている。
始めにちゃんと着たのは昨年だ。夏だったか。
よそから着物を一枚もらった。夏の着物だった。着せてもらい、夜の海辺を歩いた。
胸元を過ぎる風が気持ちよかった。(着物、いいな)と、感じた。
そして、それから、なぜか、着物をその人生とする、その仕事とする人たちと出会った。
研究者であったり、デザイナであったり、店であったり、友人であったり。
そうすると不思議なもので、着物が集まってきた。
和装の小物や帯も集まって来た。ぼくだけの着物を作ってもらったりもした。
反物をいただいたりもした。仕立てて自分のものにしたりもした。
着物を着ることの楽しさがわかってきた。
襦袢だの、半襟だの、羽裏だの、帯だの、腰ひもだの、ステテコだの、
草履だの、足袋だの、トンビだの、羽織紐だのと楽しみにがいっぱいだ。
あんなのが欲しいな、とか、こんなのを合わせたいな、と思うようになった。
時間があれば、着物のリサイクル店を見て回ったり、
今までは素通りしていたデパートの呉服コーナーを見て歩いたりしている。
着物に慣れてくると、楽なもんだな、と思う。
着るのも楽だ。首元が楽だ。体を抜ける風が気持ちいい。
着物を着て冬を過ごした。ヒートテックの下着を着、タビックスに足袋を重ね、
絹の長襦袢にウールのアンサンブル。
マフラーを巻き、とんびを着て、と防寒すると、暖かだった。
春が来た。
着物を着て歩くのに気持ちいい季節だ。
夏が来る。
夏の着物がほしいな、と思っている。
浴衣は一枚新調しよう。その浴衣は決まっている。
芝崎さんのデザインの、一枚だ。
それに合わせる帯をどうするか、と考えるのも楽しい。
夏の着物がほしいな、と思っている。
涼しい、そして、かっこいい、夏の着物。
一日着た着物を壁に掛け、風を通す。
コトバがそれを見ている。
ふわふわの羽毛を纏ったコトバが、着物を見ている。
見飽きたのか、それとも
あれを着たり、これを着たり、人間はめんどくさいな、と見切ったのか、
ぼくの目の前で眠ってしまった。