言葉を考えていた

2011年5月12日 23:50:47

書店で何冊かの本を購入し、喫茶店。
本を読むのは、ルノアールがいいなあ、と思う。
本を読み進めていると、隣の席に見ず知らずの他人が着席した。
ぼくの席とは違うのだから、どこに座ろうと自由だ。
当然と言えば当然だ。その人は、なぜか、しきりにぼくに謝る。

「隣すみません」
「他の席でもいいんですけど、ここが好きなんですよ」
「いやぁ、ほんとすみません」

答えようがない。どう答えればいいんだ。
多分、「ああ」とか「いえ」とか、当たり障りない返事を、した。
そして、読書に戻る。
その人は、カバンからiPadを取り出して、開いた。

かっこいい。目に入る。
ちらちら見ていた。器用に操作している。
メールチェックを終えたようだ。
何か、ファイルを開いて、入力をしている。
満足そうに、そのファイルを閉じた。

そして、またするすると操作。
そしたら、あの大きな画面に小さな女の子の写真。
かわいらしい女の子だ。ブランコに座って笑っている。
(おっ、かわいいな。8歳くらいかな)
そんなことを思っていた。

その人は、その写真に見入っている。
そしたら、その子が、やってきた。本物がやってきた。
やってきて、その人の前に座るなり、

「もう帰るよ!」

と、怒ったように言い放った。
「何か飲むか?」とその人が言うと、

「うーんとねー、メイプルブレッド」

多分、親子だろう。
それにしても、だ。ルノアールで待ち合わせ?
「もう帰るよ!」という発言は、どんな状況からだ?
帰りたいのに、食べるのか?

気になって仕方ない。
読書のふりをしながら、隣の会話に耳を傾ける。

「何か、食べたか?」

「もうすぐパンがくる」

「それじゃ足らないだろ」

「あとで寿司」

「いいよ。寿司を食べようか」

「どこ行くの?」

「ん?」

「お寿司食べたら」

「どこでもいいよ。どこに行きたい?」

「決めていいよ」

「じゃあな、東武にするか?」

「いや! 東武変わってからダメだもんね」

「じゃあ、西武」

「いいよ」

そんな会話。
冒頭の「もう帰るよ」は、どうなったんだ?

それより、ほんとに親子か?

「もう帰るよ」は合言葉?

んー、わからん。

8歳くらいの女の子。確かにそう見えた。が、実は、成人?

いやいや、そんなことはないだろう。

んー、わからん。

読書なんかできるはずがない。

その奇妙な二人は、席を立った。

女の子が口をきる。

「お金ある?」

いや、だから、ほんとに、どんな関係なんだ・・・

そう、言葉を考えた。
その奇妙な二人の会話を聞きながら、考えていた。
言葉が何に属するのか。言葉がどこに依存するのか。
言葉が何を表すのか。言葉の真の存在はどこか。

二人は、出て行った。