忘れずにいつも持ち歩く
2012年9月8日 23:31:14
煙草、ライター、財布、スマホ、死、文庫本。
それらは、忘れず持ち歩く。家を出るときには指さし確認する。
煙草よし!
ライターよし!
財布よし!
スマホよし!
死よし!
文庫本よし!
いつもの重さのそれらを身に付け街に出る。
喫茶店では、煙草・ライター・文庫本を取り出す。
電車の中でスマホを取り出す。
曲がり角を曲がった小さな駐輪場の前で死を取り出す。
それらを取り出し、話しかける。
煙草にライターに文庫本に話しかける。
財布に死にスマホに話しかける。
「調子はどうだい?」
この部屋以外、どこにも行きたくない日がある。
この部屋以外、どこにも行きたくない夜がある。
煙草に火をつける。
本と死を取り出す。
眼鏡をかけてそれらを読む。
創られたものに最後の判断を下すのはたった一人しかいない。
それは、作家自身だ。作者自身だ。創作者自身だ。照準者自身だ。
そこに無用な判断を持ち込むな。
素材だの感情だの時間だの次元だの、
君たちには、判断を下す権限は与えられていないのだ。
わかるだろうか。
わからなければ、それらの中に「機関」が備えられていないだけだ。幸せなことにな。
それらがそうであるなら、作品から姿を消すべきだ。
自ずから発動する機関がある。
燃料を補給し、点火しなければ発動しない機関なら、それは偽物だ。
そんなエンジンを無理矢理動かしてもいずれエンストするだろう。
わかっている。
無理矢理動かすことの快感があるということも。
それが無理矢理ではないと思いこめる時期があるということも。
しかし、いつか知るだろう。
その「機関」は、選ばれた者しにしかないことを。
今日も真夜中。
街に出ようか。
煙草よし!
ライターよし!
財布よし!
スマホよし!
死よし!
文庫本よし!