『猶予された者たち』
2018年5月8日 14:32:39
オフィス再生『猶予された者たち』
多分!
日本初の上演です。エリアス・カネッティ原作『猶予された者たち』
もう何十年も前に読んで、「ああ、こんな本を書きたいな」と思っていました。
こんなすごい本を書けたことがありませんが、
こんなすごい世界を表現したいと思いながら、何十年も作品を発表してきた気がします。
書けません、こんなの。
何がすごいって、起承転結がどうした、伏線がどうした、登場人物の人生がどうした、その解決がどうの、ラストのカタルシスがどうの、なんて、全然関係なく、書きたいことを、その思想を、本来の主題を、ストレートに信じ抜いて言葉にしているのです。
普通、演劇という作品として発表するには、テーマに沿ったモチーフを扱い、そのモチーフにはいくつものパートがあり、そのパートには、それぞれ登場人物がいて、彼らにはそれぞれ人生があり、しかし、その人生を描こうとすると必然的にテーマとは違ったことを扱う必要がでてき、それは、一種の妥協であり、妥協と言いたくなければ脚本家の技術的な解決が求められ、そうすると、自ずからテーマがぼんやりとし、そのぼんやりを埋めるために、俳優の表情や、音楽や、照明や、舞台美術という効果でそれを補うことになり、それにより、お客様に「総合芸術」的な、そんなものを提示できるのです。
この作品は違います
何が違うって、原作のカネッティが凄いからです。
テーマしかないのです!
そのテーマに、特殊な状況と言うモチーフが与えられているだけです。
『猶予された者たち』
原作/エリアス・カネッティ 照準機関/高木尋士
出演(五十音順) 磯崎いなほ 板敷輝 嶋木美羽 竹下亘 杖崎史 鶴見直斗 二之宮亜弥
7月27日(金)~29日(日)
※開演時間などは、HPや今後のお知らせをご覧ください。
☆28日は、鈴木邦男さんとのプレトークを予定しています。
チケット・3,000円(当日精算)
会場 六本木ストライプスペース
物語
この作品は、カネッティが作り出したある特殊な状況下での物語です。
登場人物の名前は、全員「数字」です。その数字はその人物の寿命をあらわしています。
「25」という名前の人は、25歳で死にます。
「79」という名前の人は、79歳まで生きられます。
それだけが絶対の世界です。「なぜ?」、「どうして?」と考えてはいけません。
その状況が当たり前の世界です。
人びとは、自分がいつ死ぬのかをはっきりと自覚して生きています。「社会保障は?」、「教育は?」、「福祉は?」などと考えてはいけません。
名前として「与えられた寿命」で死ぬのが当たり前の世界なのです。
生まれたときに自分の名前=寿命が与えられ、それにそって計画的に生きるのがこの世界での正しい生き方のようです。
「誰が?」、「どのように?」、「経済は?」、「法律は?」いろいろな疑問が湧き上がります。突っ込みたくもなります。
でも、「そんな世界」なのです。
ブルガリア出身のユダヤ人作家、思想家。激動の20世紀を見続け、書き続けたノーベル賞作家、エリアス・カネッティ。
彼はこの作品で何を描きたかったのでしょうか?
いろいろな読み方ができます。個人の唯一の財産(命と時間)に対する権力との関係。或いは、カネッティが生涯をかけて追求した「群衆」というものの一つの解。
それはそれで正しいと思います。でも、ぼくにはそれ以上に、
「名前が寿命? なんだそれ? どうやって生きるの?」
という読み方でこの作品を解釈しています。
お問い合わせ・ご予約は、高木まで
takagigokko@gmail.com