高木ごっこ・・・521-98『木の上でどっかりあぐらをかくも、のこのこのこのこ』

2008年11月24日 21:58:23

昔のあれを思い出した。
昔の、と言ってもたかだか20余年前だ。
何も知らない自分に気が付いたあの不安と恐怖。
高田馬場面影橋の風呂無しのアパートに住んで、恐怖に打ち震えていた。
中学高校と人一倍本を読んできた。その自負はあった。
当時の同級生の誰よりも読んでいただろう。
だから負けない、と思っていたあの頃。でも何にも知らなかった自分を知った。

あの、打ちのめされた一瞬を今でもはっきりと思い出せる。
きっかけは一冊の本だった。
ドストエフスキーの『貧しき人々』
短い小品だ。ドストエフスキーの処女作だ。

小学生の時に一度読み、中学高校と多分、一回ずつは読んでいる。
物語も分かりやすい。
書簡往復という手法でその後のドストエフスキー大作群の萌芽は、まだない。
素直な、色の少ない味わいのある作品。

上京して、お金がなくて本が買えなくて、
実家長州から持ってきたそれを、夜中に読んだ。

冬だった。クリスマス直前くらいだったのではないか。
コタツに入り、懐かしいなあ、と思いながら読み始めたのを覚えている。

そして、読み進めていくうちに、
何もわからない自分が居た。

理解者が欲しい。

本当にその作品の何もかもがわからなかった。
驚くほど混乱した。恐怖だった。お話の筋はわかる。そりゃわかる。
だけど、それだけだった。
彼らの恋情も寂寥も悲哀もなにも自分にはわからなかった。
なんだこれ・・・
自分の頭を疑った。次の日、太宰を読んだ。はっきり覚えている。
太宰の『晩年』。
何も分からなかった。頭がおかしくなったんだ。そう思った。
どうしよう、どうしよう、どうしよう。
上京したばかりで地に足も着かず、頭までおかしくなった。

理解者が欲しい。

そうだ。思い出してきた。確かにクリスマスの直前だ。
テレビでクリスマス特番の音楽番組のCMをしていた。
その音楽番組を楽しみにしていたんだ。
チェッカーズや泉谷、布袋や氷室、大好きなメンバーがロックでクリスマス。
それを観るのを楽しみにしていた。

読んでも読んでもわからない。
日本語なのかと疑った。頭の病気を疑った。精神を疑った。
どうしたらいいのか怖くて怖くて怖かった。
そして、

分からなくても本を読もうと思ったんだ。
今まで以上に本を読んでみようと思ったんだ。
ノルマを決めた。年間300冊というノルマ。
無理をしないように、10年と、期間を決めた。
20代の10年間に3000冊を読めば、少し何かがわかるかもしれないと思った。
適当にバイトをしている場合じゃない。
本を買うために働いた。いつも二つ以上のバイトを掛け持ちしていた。
20代にいくつのバイトをしただろう。
いくつのバイトをクビになっただろう。
本を読みすぎてクビになったり、権力と付き合いクビになったり、
だから、いつもバイトを探していた気がする。

理解者が欲しいと、思った。

休みの日の紀伊国屋が唯一の楽しみだった。
近くのカレーを食べるのが唯一の贅沢だった。

そんな日を思い出した。今日は、野分祭。
静かに、38年前を思う。思うことしかできない。
三島由紀夫の決行前日の今日という日、彼は何を思っていたのか。
森田必勝の決行前日の今日という日、彼は何を思っていたのか。38年が経ったんだ。
会場で蜷川正大さん、針谷大輔さんと話す。
美しいと思った。たくさんの参列者。ご挨拶をする。
たくさんの、たくさんの、たくさんの38年。
平早さんに写真を撮っていただいた。

理解者か・・・

そう、あの日の恐怖を思い出した。
思い出したからといって、何がどうということもない。
問い続けているぼくが居ただけだ。
どうして一人、こんな木に登っているのか。
こんなに高くまで登ってどうするつもりか。
ぼくがぼくに抗議し続けるその高さがここだ、いつも。
なんでここに登ってきたのか。
どうして高く登ってしまったのか。
高く、としか、書きようが、ない・・・

言葉を書きすぎたのかもしれない。
言葉をしゃべりすぎたのかもしれない。
この「高木ごっこ」にいくつの言葉があるだろう。
明日があれば、どんどん捨てられていくというシステムなのに。
そうか、その捨てられる、ということが中途半端なのかな。
これからも毎日書くとしても、常に上書きされていけばいいのかな。
昨日書いた言葉は、今日書いたものによって消される。
それが本来の姿なのかもしれない。
そうすれば、

そうすれば、この抗議の高さを恐怖しなくてもよかったのかも。
わからないけど。

この木から降りることは、そりゃよくある。
降りたらまたここまでよいしょよいしょと登ってくる。

理解者か・・・

なんのことはない、ここで書くことをやめることもまた一手段。
1000日の約束を反故にしてみるのも、また一手段。
20代、3000冊以上を読んだ。
何かわかったか。わかった気がすることもあるし、そうじゃないこともある。
ノルマを決めたあの冬のコタツ。何も変わっていない気もするもうすぐ冬。
そういえば、あれはなんていう曲だったか。
確か、RCだ。「ぼくの理解者は・・・」
そんなフレーズを歌っていた。RCだったはず。調べればわかるだろうけれども、
今日は、いやだ。

『冬の華』をプレイヤーに入れた。
高倉健が高倉健。どうしたって高倉健。『冬の華』