三島由紀夫烈士墓前

2009年3月22日 23:22:22

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中央線に乗り、座席に腰掛け鞄から本を取り出した。

吉祥寺を過ぎたところで

『侵略するであります!』
『こーのぉ、ボケがえる!』

と声がした。
ぼくの鞄につけていた「ケロロ軍曹」グッズだ。
先日、劇団員さとうまりこがくれたものだ。

隣に座っていた白髪眼鏡インテリ学者風の男がジッとぼくを見た。
それにしても素晴らしい繋がりでスイッチがはいったものだ。
ケロロスイッチに続き、絶妙のタイミングで夏美スイッチ。
ぼくは、知らん顔して、埴谷雄高の『死霊』を読み続けた。

武蔵境で乗り換え、多磨駅。
てくてく歩き、多磨霊園。

三島由紀夫烈士の墓参り。
強風。霊園中の木々が鳴りに鳴り、
巨大なスピーカで再生される効果音のように耳に騒がしい。
強風は小石混じりの砂を巻き上げ、目の前に破滅を予兆させる画を写す。
強風に舞う砂にあちこちから小さな悲鳴があがる。
お彼岸の今日のスカートをまくりあげ、
舞う砂々は、開いた目に突き刺さり、老人はよろめき、風が彩る破滅の画。

三島由紀夫墓前。
小さな三脚にカメラをセットするも風にコケッとこける。
どこから舞い、どこに飛ぶのか、目の前をコンビニの袋がすっ飛んでいった。

三島さんも吸っていたという「ショートピース」に火をつけて、墓前に供える。
もう一本に火をつけて、ゆっくりと吸った。
髪の毛は乱れに乱れ、強風に任せるがまま。
三島さんと『鹿鳴館』の話をする。
ぼくの『鹿鳴館』解釈を話す。そして、

来週末には本番を迎える劇団再生の話をする。
(三島さんの「楯の会」はどんなんだったのですか?)
(ぼくたちの「劇団再生」は火器以上の武器を持っています)
(「楯の会」は、自衛隊で訓練を積みましたね)
(「劇団再生」は、みんな毎日どこでも訓練しています)
(「楯の会」には、美しい制服がありましたね)
(「劇団再生」には、クラモチユキコさんが作る恐るべき衣装があります)

三島さん、あなたは自決されました。ぼくは、生きています。
この差は、何かを止揚するでしょうか。
三島さん、あなたは、書きに書いて、最後的に「檄」に集約しました。
ぼくも書きに書いて、そして、集約すべきところを知ったんです、ようやく。
それは、言葉ではない気がしています。
劇団再生劇団員の命、彼ら一人ひとりの今と言う命だと感じています。
きっと三島さんもそうでしょう。
「檄」を書きたくはなかったのではないですか?
たった一言であなたの命を引き換えたかったのではないですか。

あなたは、言葉の無力を知っていました。
あなたは、言葉を嫌悪していました。
あなたは、言葉の善良性に限界を見ていました。

そうですよね?

今、吹きに吹いているこの風。
風、という言葉がこの世に存在していなかったら、
ぼくたちを吹き付けるこの圧力は、一体なんでしょう?

長い時間を墓前で過ごした。
言葉を失い、全てを伝えられる全知全能完全無欠の存在を不快した。
埴谷雄高の自同律の不快を知ったと思っていた。
フーコーの外側にある主体観念を知ったと思っていた。

でも、

結局知っていなかったことに、気付いた。
墓前を離れる前に、
ケロロスイッチを押した。『侵略するであります!』
ぶらぶらと霊園を歩きながら、森田童子が口をついた。

たとえば、ぼくが死んだら。