黒い子
2014年3月27日 01:14:57
拳銃を持たせたらしっくりとその体になじませ
日本刀を持たせたらその刃は輝きを増し
風もないのにその長い髪は時代をなびかせ
ぼくが照準するものと黒い子が照準するものは確かに、像を結んだ
黒い子はいつもにこにこと笑顔をしていたが
ぼくは黒い子が本当に笑ったのを見たことがない
笑顔をどこに置いてきたのか、とぼくはいつも黒い子を見ていた
こと男に関してはぼくの目が誤ったことはないのだ
数十年照準し続けてきた黒い子にとって
それを記述する機関があまりに非力だった
黒い子はそれをずっと感じていた
照準することと記述すること、そして駆動すること
黒い子はその狭間でもがき続けていた
黒い子の本当の名前に意味はない
黒い子はいくつもの偽名でこの裸の街を、この仮想された世界を
この焼けただれた空を、この輝く大海原を、歩いていた
世を忍ぶ仮の姿と偽名
それが黒い子を証明するためのスタート地点だ
黒い子とじっくりと語り合ったことなんかない
黒い子と分かり合おうと慣れ合ったこともない
世を忍ぶ仮の姿と偽名、笑顔をどこかに置き忘れた黒い子
黒い子のために拳銃を丁寧にしまった