一人『LEON』

2009年12月10日 23:18:56

写真

真夜中近く帰宅して、『LEON』を観た。
誰かと一緒に映画を観たいと、ふと思った。観るとすればやっぱり、

原稿用紙を前にする。

懐かしい友人から連絡があった。
昔音楽に携わっていた頃に録音スタジオで一緒に仕事をした人。
ぼくにレコーディングのあれこれを教えてくれた。少し年上の人。

「平和台だったよね。近くを通るからお茶でも」と。

駅前のファミレスで会った。
仕事の帰りのようだ。乗っている車が変わっていた。
全体のスタイルは変わっていない。着るものもあの頃とあまり変わっていない。
ブルージーンズ、薄手のインナー、小さめのダウン、ニットキャップ。

「久しぶりだね」と。

一年位前にちょっと仕事で一緒になった。
けれども、オフで会うのは本当に久しぶりだ。
昔話を始めたら人間終わりだ、と二人とも言いながら、やっぱり昔話に花が咲く。

「相変わらず冷たい目をしてる」と友人は言った。
ああ、前もそんな話をしたな、と思い出した。ドリンクバーをおかわりしながら、
「あの頃もそうだった。みんな高木君にはちょっと距離をおいてたもんね」

そうだったのかな、と当時を思い出す。
5人くらいのチームで録音をこなし、その他スタジオスタッフの女の子が何人かいた。
この友人がチーフで、チームを回していた。
ぼくは、サードくらいの感じだったのかな。
サードとはいえ、みんな先輩だった。ぼくが一番最後に入ったんだ。

高木君は仕事はできたよね、処理や判断の速度がよかった。
そうかな。みんなが遅いんですよ。

機器操作を覚えるのも早いし、応用もできた。トラブル対応もよかった。
いや、だから、当たり前です。みんなができなかっただけです。

と、なんだか、そうやって褒められながらドリンクバー。
当時を思い出す。
毎晩毎晩、コンソールの前で録音に挑んでいた。
「すみません、今の録れてませんでした」が絶対に許されない世界だ。
ぼくは、レコーダーを担当していた。
友人は、ミキサー卓だ。
驚くほどの緊張の中、「REC」ボタンを操作し、
誇りをもって「PLAY」ボタンを操作した。

今は、レコーディングの世界も全然変わったよ、と彼は言った。
全てがデジタルになり、「一発本番」という緊張がなくなったと。
そうだ、ぼくたちがやっているときには、まだオープンテープが現役だったんだ。
1インチのテープがぐるぐると回っていた。

そんな昔話に話を咲かせながら、言われた。
「相変わらず冷たい目だね」と。

「高木君に切られるのは、嫌だったよ。みんなそう思っていたんだ」と。
「そんなこと。みんな俺の先輩だったし、きるも切らないもないですよ」

高木君に一度でも切られたら、どんなことがあっても二度とつながらない、
そう言われた。なるほど。そうか。
そりゃそうだ。
その点については、合意できる。

ぼくは、ぼく自身を一番最初に、切る、切り離す。
そして、同じスタンスで他者も切る。それは仕方ない。
それは、ぼくにとって、対象が必要かどうか、という問題ではなくて、
「在るか、無いか」の問題。
無ければ、どんなに必要であっても切ってきた。
在れば、どんなに必要がなくても必死で繋いできた。
そりゃそうだ。無いものと繋がってられるか。

他者を切れば、その切った刃は自分にかえってくる。わかっている。そんなこと。

友人と久しぶりに会った。
会って、昔話に花を咲かせた。
友人の目も全然変わっていなかった。赦す目だ。
当時、憧れた表情を、今も、その表情としていた。

次の舞台は来年3月。見に来てよ。

そう言うと、多分無理、と言われた。
誰でも知っているテレビでよく見る歌い手さんのレコーディングが入っている、と。
もうちょっとみんなに優しくしたら? と笑われた。
しらねーよ、と、笑い返した。

平和台の駅前で昔の友人と話した。
友人は、新しい車に乗り込み、ぼくはスーパーカブにまたがった。
また会おうよ、と別れた。
また、が、数年後になるのか、明日なのか、それはわからない。
このまま生涯会うこともなくお互い死ぬかもしれない。

友人は、丁寧に車を発進させた。

帰宅すると『LEON』を観たくなった。
誰かと一緒に映画を観たいと思った。