二十首詠『風のな部屋』

2010年6月19日 17:24:12

逃げるよに共産党宣言読む 肌寒き朝検温八度

隠し銃見つからぬよう祈りつつ 立ち入り禁止の扉を開ける

よくしゃべる若き看護婦眩し朝 ベアトリーチェを撃つ弾はあり

言葉の目この手で隠し放逐す どこへでも行けさらば言葉よ

堕つ雨に我が身を映し首絞める 長きストールその香を探す

銃隠しナースコールを引き寄せて 忍ぶ痛みと邪宗門を読む

痛みこらえくわえしタオル一人洗う 涎と汗と我を流しつ

誰もいない誰もいない朝演劇の 扉を開けるも誰もいない闇

窓開けし若き看護婦マルクスを 手に取り笑う見たこともないと

書き遺し言葉も滅ぶ我と共 空の寂しさ理解者はなし

叫べども寂しさ故か伝わらず この革命はおのれ一代

在りし日の言葉の影を追う我も 今日は墓前に言葉の命日

予言者か原稿用紙に一人立ち まだ見ぬ演劇荒野指差し

一篇の脚本は泣く声を上げ 上演を求め人を求めて

看護師と言い張る看護婦窓際に ピンク一輪「これでよし」と活け

痛み超えシーツ切り裂き声も出ず ナースコールを押し続け闇

夜を耐え言葉の淵の不安に耐え 体温計見し朝にただ泣く

夜に起き扉の外の足音に 耳を済ませて銃に触れる

切り裂いた真白きシーツで目隠しす 何も見えない世界を見せろと

看護婦の活けし一輪首を垂れ 風のない部屋小さく揺れる