二十首詠『目隠しされた拳銃〜病窓マルクス〜』

2010年6月21日 16:17:52

望めどもアイスクリームに足はなし 点滴引き摺りとぼとぼ買いゆく

病窓に並ぶ資本論逆光で 赤き表紙にその文字読めず

彷徨ひし登場人物手を伸ばす 言葉をください生かしてください

官能の香を嗅ぎしか目を覚ます 首に巻きつくストールに泣く

自らを略奪せし演劇は 絶望故と破壊を望む

言葉ゆえ翼なくした革命に 神の声見ず我充満せり

病室に銃を持ち込み夜狙う こめかみの向こう演劇寂し

ぼくたちは本になるんだ死出の朝 向かう荒野に読者は誰か

マルクスは窓に並びて威儀正す 歴史の審判怖れることなく

水を換え拭けども消えぬ薬臭に 「先生、体中取り替えてくれないか」

絶え間ない苦痛の狭間に宣言す 一、脚本を書く 一、演劇を捨てる

言葉にて目隠しされし脚本に 俳優は見えず舞台も見えない

真夜中にカチリと音聞き目を覚ます 握りし銃の撃鉄の音

わが撃ちし言葉の破片病朝に 看護婦に隠れ拾い集める

撃つために銃は真夜中目を覚ます マットレスの下火薬が眠る

桜桃忌太宰を真似し頬杖に 手に当たるひげ形而上に剃る

忘れ物かか細き首の一輪挿し 開きし窓の梅雨風に割れ

懐かしき香りを運ぶストールに 一緒に死ぬかと聞きしは一人

梅雨窓に我が物顔の資本論 若き医者はそれを見て見ず

わが書きし上演したし脚本(ほん)を読む 舞台はどこださらば演劇