ピアノを弾こうか

2011年12月15日 22:38:39

なんか仕事をしようか、とぐるり、あたりを見回す。
さて、何が仕事になるか。ぼくの何が換金できるか。
部屋の中を見回してみる。ぼくの完全なる部屋だ。
誰ひとり立ち入ることのできない部屋だ。ぼくの管理下に置かれた世界だ。

演劇だ、読書だ、世界だの芸術だの言葉だのと、
かっこつけて連ねているけれども、つまるところ、
この部屋を守りたいだけじゃないか、と詰められれば、「あっ」

「そうかもしれない」と答えてしまうだろう。
まあ、それはそれでいいじゃないか。いつもの机について部屋を見渡す。
なんか仕事でもするかな。ちゃんと仕事をしようと思えば、実は案外、
仕事はできるんじゃないかと自分では思っている。
あれやこれやと国家資格を取得しているし、得意なこともある。
ある程度専門的な事柄に対応できたりするスキルのある分野もある。
手先も器用だ。人付き合いも20%くらいはできる。
人当たりも決して悪くはないだろう。規則正しい生活は得意だし、
組織に属し、そこでそれなりの立場をわきまえるすべも知っている。

さて、なんか仕事をしてみようか。
と、部屋をぐるりと見渡した。見回して、これまでの何十というバイトを思い出した。
いろんな仕事をしてきたな、と思い出した。
よし!

これまでにいくつの仕事をしてきたか数え上げてみようじゃないか。
メモ用紙に思いつく限りの仕事歴を書きだしてみた。
ちょうど30種類だった。23種類は、人に言える仕事。
7種類は、とても人には言えない仕事。なるほど。そんな感じか。
いろんなことを思い出した。
7種類の仕事で、23種類の仕事の総収入の倍は稼いだだろう。

たかだか25年で30もの仕事か。なんか仕事でもするかな。
一本の電話をかけた。「仕事ない?」と。
「あるよ。おいで」と返事があった。
そう返事をされると、なぜかその仕事をした気になって、したくなくなる。
それは、まあ性格だ。そう思うからといってしないことは決してない。

そういや世の中は「シーズン」だ。あれやこれやの「シーズン」だ。
仕事に向けて少し練習をしておくか、とピアノを弾いた。
煙草をくわえ、ピアノについた。鍵盤が冷たい。両手をのせる。
何の音からかな、と楽しみに指を落とした。やっぱりだ。
大好きな「ラ」。なるほど、そこからね、とイ短調の旋律が流れる。

煙草の煙が目に入るので、煙草を消して、弾いた。
少し爪が伸びている。鍵盤に爪に当たる音が気になる。爪を切った。

爪を切って、またピアノを弾いた。